2019年03月13日

西田佐知子「コーヒールンバ」



昔アラブの偉い お坊さんが
恋を忘れた あわれな男に
しびれるような 香りいっぱいの
こはく色した 飲みものを教えてあげました

やがて心うきうき とっても不思議このムード
たちまち男は 若い娘に恋をした

コンガ マラカス 楽しいルンバのリズム
南の国の情熱のアロマ
それは素敵な飲みもの コーヒー モカマタリ
みんな陽気に飲んで踊ろう
愛のコーヒールンバ

みんな陽気に飲んで踊ろう
愛のコーヒールンバ


なんと2か月半ぶり、今年最初の記事になります。

この歌に関しては一度記事を書いて没にしたのですが
再チャレンジであります。

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最初に原曲について触れていきます。

今も歌い継がれる有名な歌ですが
起源をたどると南米ベネズエラにたどり着きます。

南米といえばいわゆるラテン音楽のメッカなのですが
ルンバ、マンボ、サルサ、ランバダ、レゲエなどなど
多くの音楽ジャンルを総称してラテン音楽と言っています。

まあどれをとっても陽気なエネルギーにあふれたものです。

のちにアルパ奏者として有名になる
Hugo Blanco(ウーゴ・ブランコ)という人が
17歳のころにこの曲の作曲をしました。

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ブランコの叔父であるベネズエラの作曲家
J.M.Perroni(ホセ・マンソ・ペローニ)がこの曲を聴いて
「めっちゃノリノリでいけてるやん!
ウーゴは17歳やし、ワシが作ったことにしとこ」


かどうかは分かりませんが、
とにかくホセ・マンソ・ペローニ作曲、ウーゴ・ブランコ演奏として
1958年に「Moliendo café(コーヒーを挽きながら)」発表。

当時は歌詞が無く演奏だけでしたので動画は割愛しました。

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その後、二人は著作権で揉めてしまったようですがこれも割愛。

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同じ頃、イタリアで個性的な女性歌手がデビューしていました。
Mina、Mina Mazziniミーナ・マッツィーニともいいます。

1940年生まれで18歳になった1958年にデビューし
Wilma De Angelisが歌った美しいバラード「Nessuno」
強いビートで再アレンジして歌ったりしていました。

Mina「Nessuno」

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この動画は1960年ですので20歳の頃です。
振りも大変個性的ですが素晴らしい歌唱です。
バスタブに若き日のChet Baker(チェットベイカー)なんかもいたりします。
とにかくかっこいいです。

1959年の「Tintarella di luna」という歌が彼女の人気を決定づけます。
日本では「月影のナポリ」という曲名で有名です。

Mina「Tintarella di luna」

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1960年、シングル「Moliendo cafè(コーヒーを挽きながら)」リリース。

Mina「Moliendo cafè」

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この「コーヒーを挽きながら」Lucho Gaticaなど多くの人に歌われ
その積み重ねで世界中で人気になったのは確かですが
当時のMinaの功績は大変大きかったと思います。

Minaは今もご存命の78歳。
Yotubeチャンネルもお持ちで活動を続ける
大変素晴らしい歌手の一人であります。

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この頃の日本では、以前の記事でも書いたように
江利チエミや坂本九などの洋楽カバーが売れていた時代でした。

「コーヒーを挽きながら」を聴いた当時のディレクターは
日本語バージョンをリリースしようと考えました。

1956年に歌手デビューしていた西田佐智子
1960年の「アカシアの雨がやむとき」が大ヒットし
紅白歌合戦にも出演していました。

翌1961年8月、西田佐智子の「コーヒールンバ」リリース。

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ディレクターが曲のタイトルを「コーヒールンバ」と決め、
歌詞を中沢清二という作詞家に依頼したことになっています。

原詩は全く違う歌詞ですが、
あくまでも日本語バージョンということで
新たな歌詞が作られました。

この歌詞がとてつもなくすごい。

昔アラブの偉い お坊さんが

この出だしの一文で聴く者すべての心をつかみました。

全体を読んでもこの歌詞に意味らしい意味は存在しませんが、
今も歌い継がれているのはこの歌詞のおかげなのです。

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1959年にデビューしたザ・ピーナッツ
1961年になるまでオリジナル曲を出さず、
洋楽のカバーを専門に歌っていました。

リリースは森山加代子に1か月先をを越されましたが、
先ほどのミーナ・マッツィーニの「月影のナポリ」
1960年にシングルとして発売していました。

「月影のナポリ」をカバーしたくらいですから
当然「コーヒーを挽きながら」もカバーをしましたが
1962年1月発売、とこちらも
1961年8月発売の西田佐知子に
5か月、遅れをとってしまいました。

いや、正しくは遅れをとったということではなく
ザ・ピーナッツの「コーヒールンバ」は
西田佐知子「コーヒールンバ」の改造版
でした。

ザ・ピーナッツ「コーヒールンバ」


作詞は「あらかはひろし」となっています。

う、うん・・・そんな作詞家・・いないよね・・・

以前の記事を覚えていらっしゃるでしょうか。

江利チエミの「テネシーワルツ」の日本語作詞をした音羽たかし
ザ・ピーナッツの「情熱の花」を作詞した音羽たかし
ザ・ピーナッツの「コーヒールンバ」を作詞したあらかはひろし

そうこれは全部キングレコードの音楽ディレクターであった
和田壽三のペンネームであります。

しかもややこしいことに
当時ディレクターだった牧野剛も音羽たかし名義を使っており、
音羽たかしもあらかはひろしも使い回され
実際は誰が書いていたのか分からないという始末であります。

遠い南の 夜空の星に
聞こえる甘い 恋のあの歌
若い二人の 心かきたてる
しびれるような すてきなリズム
コーヒー・ルンバ

情熱の炎が この胸にうずまいて
初めてかわした くちづけに愛を知る

マタリの味に いつか胸は燃え
優しく抱かれて 踊る宵
甘いモカの香り そのままに
我を忘れる 素敵なリズム
コーヒー・ルンバ


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5か月前に発売された西田佐知子バージョンの歌詞を
かなり・・・かなり参考にして作られていますが
キモの部分まで似せるわけにもいかず
結果として凡庸な歌詞となってしまいました。

まあそれ以前にタイトルを「コーヒールンバ」って
そのままいただいちゃってますからね。

歌手としてもザ・ピーナッツに比べ
西田佐知子を知る人が少ないにもかかわらず
今も歌われているのは西田佐知子バージョンなのであります。

昔アラブの偉い お坊さんが

このインパクトがとても大事だったんですね。

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さて作詞家の中沢清二とはいかなる人物なのか。
他にどんな歌の歌詞を書いているのか。

気になった方も多いんじゃないでしょうか。

そうです!
察しの早い方もいらっしゃるでしょう!

情報が無いのです・・・

私の勉強不足であれば大変申し訳ないのですが・・

これほどインパクトのある歌詞を書いた作詞家の
いっさいの、なんのじょうほうもありません!

「ディレクターが曲のタイトルを「コーヒールンバ」と決め」
「ディレクターが曲のタイトルを「コーヒールンバ」と決め」

あれ!?
あなた、今「あっ!」って思ったでしょ!?
私も「きっとそうに違いない」と思っていたところです!

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この歌詞の背景を少しだけ。

1960年くらいの日本は高度成長期でした。

燃料は石炭時代から石油へと変わり
原産国であるアラブ諸国が注目されていた頃です。

日本にとっては宗教的なことも含め、色々な意味において
一番分かりにくい地域のひとつでもあります。

今でも、中近東、中東、アラブ、アラビア、イスラムなどを
正しく説明できる人は少ないことでしょう。

今では怖いイメージの国々となってしまいましたが、
1960年頃の日本にとっては、
今よりももっと不思議な神秘的な地域でありました。

1967年の「大魔王シャザーン」なんて
アラビアをイメージしたアニメもありました。

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「アイアイサー!ご主人様!」とか言っていましたが
「アイアイサー」自体スコットランドあたりの船乗りの言葉らしく
設定自体がめちゃくちゃだったりします。

最近ではアキネイターというアプリとか
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一番有名なとこでは「アラジン」なんでしょうね。
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このよく分からない神秘的な不可思議な感じを
よく分からないけどそれっぽい単語を並べて構成しています。

タイトルは「ルンバ」としています。
この音楽は全くルンバ要素が全くないのですが
ルンバ自体は南米の音楽の一種です。

しかしいきなりそれは否定されます。
昔アラブの偉い お坊さんが

ルンバと言いながら舞台はアラブなのであります。

コンガ マラカス 楽しいルンバのリズム

コンガやマラカスはキューバあたりでは使われていますね。
ここは南米チックであります。

そしてそれはまた否定されます。
それは素敵な飲みもの コーヒー モカマタリ

モカマタリといえばイエメン産のコーヒー。
イエメンといえばアラビア半島なのであります。

色々な要素がミックスされてごちゃごちゃではありますが
この素晴らしい歌詞の前では
「そんなこたあどうでもいいよね!」って感じですね。

この無国籍で不思議な感じ
この曲から18年後の1979年リリースの
久保田早紀「異邦人」に再現されるのです。

久保田早紀「異邦人」


CD+DVDのベスト盤です。
こんなの出てたんですねえ。

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その記事はまたいつか。

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そしてこの歌詞の素晴らしいところは
言葉ではなく音(おん)としてそれは発揮されているところです。

2000年代に入り、ジャパニーズポップス界では
カバーアルバムが多く作られるようになりました。

2001年に発売された井上陽水「UNITED COVER」という
カバーアルバムはその走りだったように思います。

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カバーアルバムの多くは
「固く売り上げが見込めるから」とか
「作って精査して、みたいな作業が少なくて制作費が安上がりだから」
というものだと思いますが、

井上陽水の場合は
この時期オリジナルアルバムをほとんど出していなかったので
リリース契約上のことだったかもしれません。

たしか表向きは「本人が選曲した」ことになっていたと記憶していますが
明らかにスタッフ側が選曲したんじゃないでしょうか。

正直あまり力が入ってないようなアルバムでしたが
「コーヒールンバ」だけはちょっと違っていました。

たまたま本人が気に入っただけなのか分かりませんが
子音と母音の組み合わせである音(おん)の
発音の達人
である井上陽水らしい素晴らしい出来でした。

「笑っていいとも」に出演した井上陽水は
この歌詞の音(おん)について少しだけ触れていて
それは面白おかしく話されていますが



一音一音が素敵ですね。

例えばですが、
動画にもあった「若い娘に」の部分。

荻野目洋子、小柳ルミ子、西城秀樹あたりの歌謡曲勢としては
「わーかいむすめに」と歌っています。

音(おん)的な理屈からすると
「たちまちおとこは」という母音がoで終わるくぐもった音の連続のあとに
「わ」というw+aで音を広げるわけですが、
それを「か」という固いkの子音ですぐに切ることでグルーブ感が出ます。

西田佐知子は「わかいー」と歌っていますのでちょっとあやふやな感じです。
井上陽水はここを「わかーい」とはっきりシンコペーションをさせています。
福山雅治も「わかーい」派閥ですがあまり意識はしていないようです。

「わーかい」では、kの音が2拍目の頭に来てしまい、
waのあとにkaを持ってきた意味合い自体が少なくなってしまい
グルーブしなくなるわけです。

以前、岡村靖幸の「Lovin' you」の記事
岡村靖幸のグルーブさせた歌い方と
渡辺美里のグルーブゼロの歌い方について少しだけ書きました。

どちらが良い悪い、の問題ではなくて、
歌謡曲としては「グルーブをさせない」というのが正しいのでしょう。

ただ、声をカラオケ的な歌としてではなく
楽器のひとつとして見立てた場合は
井上陽水の歌い方は大変素晴らしいものだと思います。

そして文章の最後のキメは
「あげました」
「恋をした」
「アロマ」
「ルンバ」

というように「a」の解放的な母音できっちり解決させているのです。

歌詞によくある「韻を踏む」ということだけではなく
音(おん)として選ばれた母音なのであります。

「若い娘に」の部分と同じ理屈で出来ているのが
「こはく色した 飲みものを教えてあげました」の部分。

子音のmn母音のoが続き
「のみものをおしえて」とむにゃむにゃさせたあとに
「あっげっました!」と、
これも解放されたaの母音のダブルとk(g)の子音で解決させています。

さらに一番のキメの部分を「愛の」で始めることにより、
母音の「あa」で始め「バa」で終わり、
さらにさらに「コーヒー」というkの子音でパワーアップさせるという
まさにリスナーに強く印象付けることが出来る
「あいのこーひーるんば!」なのであります。

「アラブの」とか「愛のコーヒールンバ」のように
この歌はaの母音がかなりキーになっているようです。

ちょっと何を言ってるのか分からない方すみません。

井上陽水のすごさはもちろんですが
この歌詞の音(おん)としての素晴らしさを確認させてくれます。

この歌はもともと洋楽の楽曲ではありましたが、
この奇妙かつ素晴らしい歌詞のおかげで
原曲とは別の日本の音楽として成立しているひとつだと思います。



そんな諸々を踏まえて荻野目洋子バージョンを聴くと
「えっ?」となんだか感慨深い感じになったりします。
途中で「レッツダンス!」とデビッドボウイを混ぜたりするのは
今も納得できなかったりしますが、
可愛いからそんなこたあどうでもいいんです!


コーヒー・ルンバ(アルバム「ディア・ポップシンガー」より)

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何の根拠もない話ですが
いまだにこんなにポピュラーに歌われてるのって
実は日本が一番なんじゃないでしょうか。

ベネズエラで生まれ、イタリアなどの歌手が広め、
日本でアラブっぽい歌詞がつけられ、
コーヒールンバとして日本的な懐かしソングになっているのは
何だか素敵なことであります。

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posted by スナフキン兵長 at 13:27| Comment(0) | 西田佐知子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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